襷インタヴュー | 和田康太郎さん「ライフジャケットで助かるいのちがある」
神奈川県の海でひとり、釣りを楽しみに、手こぎボートに乗っていた和田さん。
購入してはじめて着たライフジャケット(当時は固型式)によって助かったといいます。
WEBサイト『こどもパパ』さんの協力も得て、このインタヴューは実現しました。
和田さんに当時の状況や、落水してから船に戻るまでのお話を伺いました。
― 当時の状況を教えてください。
海に出ると、海の風にあたってとても気持ちいいですよね。
当時は3月がおわって、4月に入ったところで、
仕事がバタバタと忙しいなか、リフレッシュしたいなと思って、
実は花粉症なんですけど、どうしても海に出たいと思って、
花粉症の薬を飲んで、手漕ぎボートに乗って釣りに出たんですよね。
そうすると体が思ったより反応しないことを後からわかったんですけど、
アンカーを落とすときもあまり考えずに放り投げてしまって、
海に落ちてしまいました。
― アンカーを投入する時はどうすればいいのでしょうか?
釣りのWEBサイトなどでは、
「アンカー投入時は要注意」って書いてくれていて、
有名な方のWEBサイトでも、
「アンカーを入れる時は手をパッと放すだけにしよう」って
書いてあったんですけど、その時は全然意識なくやってしまいましたね。
― 落水されるときはどんな感じだったでしょうか?
時間が止まりましたよ。
落ちていく自分を、後ろから見ているような感覚におそわれて、
船べりに足が引っかかるとボートごとひっくり返りそうだったので、
逆に勢いをつけて海に飛び込んだ。
結果的にはそれがよかったんですけど、
一切、荷物は水をかぶらずに済みましたね。
ただ、本当に時間が止まったような、スローモーションのような感じでしたね。
― 海水の温度はどうでしたか?
4月はじめの海で、風もそこそこありました。
着ている服も結構重く、水を吸いやすいものでした。
下はスエットを履いて、その上にビニール製の釣り用つなぎを履いていて、
長靴を履いて、上にはセーターを着ていたんですよね。
落ちてすぐは冷たいという感覚は全然ないんですけど、
とにかく、あっという間にスエットにも水が染みこんでくるし、
セーターも重くなってくるし、
長靴なんか真下に人の手で引っ張られているような重さを感じて
「これは、やばいな」と思いましたね。
寒さを感じたのは船の上に戻ってからでしたね。
― その時に、ライフジャケットが活躍したのでしょうか?
そうですね、なんだかわからないで落ちたんですけれども
気がついたら水の上に頭が浮いていて、全然首から上が濡れてないんですよね。
ライフジャケットのおかげで両手も自由に使えるし、
頭から上が出ていて、安定してバランスとれているというのが、
パニックにならないですんだという感じでしたね。
当時は固型式ライフジャケットを着ていた。(『こどもパパ』さんより)
― 携帯電話は?
「海の事故は海上保安庁へ」ということは頭にあって、
自分の力ではあがれないなと思ったので、
すぐに118番へ電話しようと思ったんですよ。
ダメなんですよね、電源が入らなくて(笑)。
「あ~こういうもんか」と後は自力で上がるしかないなと。
防水ケースにいれるべきでした。
あと後悔したのは、ライフジャケットに、
呼び笛をつけていなかったのが痛かったですね。
― なるほど、呼び笛ですか。
海に落ちると目線の高さが海面と同じ高さになってしまうので、
周りから人の目って届いていないと思うんですよ。
今回はボートも転覆していないので、
きっと、ボートの中で寝ているんだろうなくらいに思われていて、
誰も気がついてくれない。
間違いなくこの水温(当時の水温は13度)なので時間がたてば
低体温症にもなるかもしれないですから、
呼び笛はつけておいた方がよかったですね。
― 近くを通った船もありましたか?
落ちてからはわからないんですが、
落ちる直前は50m以内に1艘はいましたね。
同じ手こぎボートが。ただアンカーをおろしてから流れていきますので、
アンカーがのびきって自分が完全に落ちている段階では視界には一切見えない。
たぶん、近くにはいないだろうなと。
実際にあがったときはいなかったんですけどね。
― 手こぎボートにあがろうとしたけど…
全くあがれない。こどもパパさんとも話をしていますけど、
落水した時は「船尾からあがること」が鉄則になっているんですよね。
船尾から上がることで船が安定しているし、
後ろのほうが下げやすいんだと思うんですよ。
自分もそうしようと思って船尾に回ったんですけど手こぎボートなので、
エンジンがついていないため、後ろもそんなに下がっていなくて、
ひっかけるところも持つところもなかったので体を上げられなかったですね。
横から乗りこむというのはあまり推奨されていないと思うんですけれども、
たまたま運がよくその向きから入って助かったんだと思っています。
― どれくらいの時間ボートに上がろうとしていたのでしょうか?
時計を見ていないんですけど、
時間は15分から20分くらいは海の中にいたと思うんですよ。
チャレンジした回数は、船尾に回って3回くらいは体を持ち上げようとしましたね。
3回持ち上げようとしている時点で筋肉は悲鳴をあげていて
普通考えられるような重さじゃないんですね。
落ちちゃったときには。水着でも着ていれば違ったんでしょうね。
冬の装備は厳しいですね。
― でも、その後にあがれる瞬間が?
「その時!」みたいな話だと思うんですけど、
波を受けない横側に回って見えたのが
手こぎのオールを通すリング状になっている部品ですね。
そこを何とかして掴みたかったんですけれども、掴めないんですよね。
でも手首をひっかけられそうだなと思って、
手首がかかって固められたので体を寄せて左足をこういう感じですよ。
船べりに足がかかればいけるなと思いましたね。
膝をなんとか中に入れて転がりこんだ。危機一髪でした(笑)。
― 家族のことを思い出して?
そうです。それがすごい励ましになりましたね、あの時は。
1人だったらそのまま流れてどこか行けるのかな
くらいに思ったかもしれないんですけど、
帰らなければいけないなと思いましたね。
― ボートに上がれたときは?
まずは仰向けでぼーっとしてるんですよね。
たぶん相当興奮していて、寒いはずなのに震えたりもしてないんですよね。
それで座ってタバコに火をつけるんですよ。
タバコ濡れているんですよ。
火つかないんですよ、本当に(笑)。
― 落ち着くように?
落ち着いているというかぼーっとしている感じ。
― 自分を取り戻すように
なんか、おかしいんですよ。感覚がもう。
それで火がつかないじゃないですか、じゃあ釣りするかと思ったんですよ。
釣り出来るかなと思ってタックルを持ってみたんですけれど、
普段持ちなれているタックルですら重くて、
そのへんからだんだん冷静になってきて、寒気がしてきたのが。
船に上がってから風も受けているので
体温が下がっていったんだと思うんですよ。
このままだと竿も握れないですから
当然オールも握れない、帰れるわけない。
でも帰らなければいけないので、そこから伸びきった
アンカーをヒーヒー言いながら巻いて、入れて、帰るかと。
普段よりもすごい時間がかかっているので巻いているうちに
アンカーポイントまで近づいているんですけど、
アンカーをしまって、オールでこぎはじめようとするまでにも
船は相当岸よりに流れているんですよ。
ここから漁港まで戻るのに相当時間かかるな
と思いながら、こぎはじめました。
― なんとか進んで
どんどん船が岸に寄せられていくので
全くコントロールできていなかったです。
こわかったです。
― ライフジャケット以外にも気をつけたほうがいいことはありますか?
1つはライフジャケットに笛をつけておくことですかね。
今、いろんなところでライフジャケットを
入手することが可能になっているんですけど、
装備が基準を満たしているかとか、
いざというときに機能するかは
想定しておかなければいけなかったと思いましたね。
笛は必須だと思います。
あとアンカーをおろすときに落ちているので、
下手したら足とかに絡んでいたかもしれないんですよ。
正直、あの重さのアンカーが、もし絡んでいたら、
わからなかったなって思います。
アンカーをおろすときは要注意ですし、
絡まないように気をつけてください。
― その後の「ライフ」に変化はありますか?
撮影時は『こどもパパ』さんと、膨脹式ライフジャケットを着用(肩掛け・腰巻)
まず一人で手こぎボートに乗るのは怖くなりましたね。
怖いっていうのは、海が怖いっていうよりは、
守らなければならない家族がいる中で危険はおかせないなっていう感じです。
この話がいろんな方の耳に入って
「よかったね」と言ってもらえるのは、うれしいです。
この話を知って、1人でも多くの方が
ライフジャケットを着用していだけるとうれしいですし、
着用された後に万が一のときでも
「助かるいのちがあるんだ」と思っていただくのが望みです。